事業主の事業を計画的に承継することができれば一番ですが、不慮の事故でなくなってしまう可能性もゼロとは言い切れません。
個人事業主の場合、事業主が死亡するとこれまた大変!まず、故人名義の口座が凍結されてしまいます。財産分割が決定するまではお金が引き出せないため、途端に事業資金のやりくりに四苦八苦してしまう事例が少なくありません。その後も、商売上の契約名義を跡取りの名前で再度契約し直すなどの大変な手間がかかります。
これに対し会社の場合は、まず口座が凍結されることはありません。株主総会を開いて新しい社長を選出して登記し直すだけです。商売上の契約名義も会社名になっているわけですから、代表の名前を変更するだけで済みます。
事業主が死亡した場合、相続税の計算にも大きな違いがあります。個人事業主の場合、事業用の財産だろうとプライベートだろうと、どちらも個人の資産になり相続の対象になります。一方会社の場合は、会社の資産は会社のものですから相続の対象にはなりませんし、相続の対象になるのはプライベートの資産と会社の株主であれば株式のみとなります。
大株主が保有する株式の評価は、大きく二つに分かれます。1つは、会社の資産と負債を、亡くなった時点の時価によって計算した差引純資産額をもって評価する「純資産価額方式」と、もう1つは同業者の上場企業の株価を参考にする「類似業種比準方式」です。小さな会社であれば純資産価額方式、大きな会社であれば類似業種比準方式、中企業であればその二つを使う方法もあります。いずれも株価が低く評価されたほうが相続には有利なので、会社の純資産を下げるなどの節税対策があります。
以前の記事でも書きましたが、生命保険に加入していた際も会社の方がお得で、個人とでは受取る場合に違いがあります。個人契約の保険金の場合、相続する一人当たりに500万円までの非課税限度額があるので、それを越えた部分は課税の対象になります。会社の場合は、保険料を会社の経費にするには受取人を会社にする必要があると以前の記事で説明しました。つまり、受取人が会社になっていればそもそも相続税の対象になりません。
会社が受取った保険金を死亡退職金として、遺族にお金を残すことができます。この場合は先程と同様、相続する一人当たりに500万円までが非課税となります。さらに、弔慰金規定を作成しておけば、業務上の死亡でない場合には、給料の半年分を相続税がかからずに弔慰金として遺族に残せます。つまり弔慰金を活用すれば大幅に非課税でお金を残すことができます。
ちなみに、相続税は非課税部分が大きく、課税される人は大きな財産を持っている人だけです。相続税の基礎控除額の計算式としては、「5000万円+1000万円×法定相続人の人数」となっています。